リハビリテーションの目的って何?
「高齢者」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、病院通いや外来リハビリに通っているイメージかもしれません。今まさに、家族を病院に連れていっている、あるいは入院しているという人もいるかもしれませんね。
病院でお薬をもらうのと同時に、「リハビリテーション」の実施がされることも多いかと思います。リハビリは単に病気やけがからの回復だけでなく、日常生活の質を向上させ、健康寿命を延ばす効果があると言われています。
それは、 「rehabilitation」という単語でも表現されていて、
habilitation(ハビリテーション)=「適した状態にする」
rehabilitation(リハビリテーション)=「再び、その人らしい生き方を取り戻す」
という意味合いになります。
ある方にとっては、グランドゴルフが何よりの趣味・生きがいかもしれません。
またある方にとっては、食事の後に施設のラウンジで他の利用者さんの語らうことが日常の楽しみになっているかもしれません。
縁側に座り自宅の庭をぼーっと眺めることが生活の中心になっている方もいるかもしれません。
あるとき、転んでけがをして一時的に歩けなくなったり、あるいは麻痺を起こして手が使えなくなったり、誰かの介助がないと食事がとれなくなる・失語症になり言葉がうまく喋れなくなることが起こり得ます。
そんなとき、麻痺が原因であれば麻痺の回復の手法を使う必要があるかもしれません。関節が固くて可動範囲が狭いことで不都合を起こしているのであれば、関節が動かせる範囲を拡大させなくてはならないかもしれません。
筋力が低くてそうなっているのであれば、筋力をつけないといけませんし、それらの機能回復の段階にない、あるいは機能回復をしても目的を達成できないとしたら、道具を使ったり代替手段を確保しないといけないこともあるでしょう。
「その人らしさ」を別の角度から再獲得しなくてはならない場面が出てこないとも限りません。
本人の能力と「その人らしい生活を取り戻す」「その人らしい生活を再び作り上げる」ために必要な道のり、そのための手段を考え実行するのが「リハビリテーション」といえるでしょう。
今回は、「高齢者のリハビリテーション」に着目して、その概要から具体的な方法・効果・注意点まで分かりやすく詳しく解説していきます。
高齢者リハビリの目的
そもそも、高齢になるとなぜリハビリテーションが必要になるのでしょうか?
持病が増えてくるから
年齢を重ねるにつれ、既往が増えてくるというのが理由の1つとしてあります。
たとえば腰の脊髄が通っている部分が狭くなる「腰部脊柱管狭窄症」といった病気になると、歩けるけれども長く歩いていると腰痛が起こったり足の痺れが強くなって歩けなくなるといった症状が出てきます。
そもそも長時間続けて歩けなくなりますから、持久力の低下を招いたり、足の筋力が落ちたりします。 一見、元気に歩けているように見えても、長期的にみると健康に悪影響を及ぼしやすいというわけですね。歩ける距離が短くなったり、腰の痛みがひどくなったり、足の痺れが強くなって生活に支障が出てくるかもしれません。
こういった場合は、反り腰が腰に負担をかけるため、反り腰に出来るだけならないような姿勢を保つためのトレーニングや腰の筋力保持を「意識的に」行う必要があるのです。
そのため、入院が必要な状態ではなくても外来リハビリテーションなどで習慣的にリハビリテーションを受ける必要がでてきます。
入院が必要な、大きな病気にかかりやすいから
高齢になると、
●脳梗塞になって麻痺が出た
●風邪をこじらせて肺炎になり、しばらく横になる生活を続けていたらベッドから動けなくなってしまった
といったようなことが起こりやすいです。
そういった場合、自宅や施設などでの生活が難しくなることと、病気の治療のための管理が難しくなりますから入院が必要になってきます。
手術が必要になればなおさらですね。
手足の骨折であれば、場所によっては安静が必要ですが安静にしすぎると関節が固まってしまい、骨が治ったとしても関節がうまく動かなくなってしまい筋力も落ちてしまいます。ですから、それを防ぐためにもリハビリテーションが必要になってきます。
手の骨折であれば、食事やトイレからドアノブを開ける、雑巾を絞るなどの日常生活動作に使えるようにする必要があるかもしれませんし、家事をする人であれば洗濯や掃除・料理が問題なく行えるようにする必要が出てくるでしょう。
足の骨折であれば、立ち座りをしたり歩いたり、段差の昇り降りをしたり・・・人によっては長距離を歩く必要があるかもしれません。
その人がもともと行っていた生活動作を、再び確保できるように練習をしていきます。
人は、しばらく歩けない期間があって久しぶりに歩くと、
と不思議に思ってしまうほど、元々の歩いていた感覚が分からなくなります。
人は、歩くときに無意識で歩いています。「右足を出して、次こっちの手を振って・・・」などといちいち考えてはいません。自分の関節が、バランスの機能が、筋力が、それぞれ歩行のシステムを作り上げて自然と歩いているわけですね。
ところが、いったん足のケガをして痛みが出たり、筋力がうまく発揮できなかったり、関節が動かせなかったりするとシステムが崩れるため、元の自分の歩き方が分からなくなってしまいます。
脳梗塞でも同様です。麻痺を起こすと元の歩行のシステムは使えなくなってしまいます。
大きな麻痺を起こさなくても、たびたび膝折れが出現して安全に歩けなくなったり、歩くのに労力が必要になることもあります。
さらに高次脳機能障害といって注意が散漫になったり、複雑な思考能力が落ちたり、右側・左側の空間認知や身体の認知ができないなどの症状を起こした場合も更に歩行が難しくなってきます。
●自分の体が傾いていることに気が付かず、姿勢を修正できず転倒してしまう
●転倒リスクが高いことを自覚できず、歩いてしまう
といった問題が起こってくるからです。
生活そのものを大きく変えるような病気にかかると、いろんな動作に支障が出てきてしまい不都合や不安が生じます。本人にとっても家族にとっても、です。
そのため、関節を動かす練習や筋力練習、高次脳機能訓練などの本人の機能そのものを改善させていくための訓練、食事動作や歩行練習など日常生活動作が出来るようにするための訓練などを行い生活動作の獲得を目指すこと、また病気や症状から起こる不安やストレスを出来るだけ軽くしていくのもリハビリテーションの役目になります。
認知機能の維持に効果的だから
「デイサービス」「デイケア」という通所施設の名前を聞いたことがある方も多いかもしれません。
●デイサービス:食事や入浴など「生活支援サービス」を中心に提供
●デイケア:医師の指示によるリハビリや健康管理など医療的サービスを中心に提供
デイサービスは基本的に専門家のリハビリはありませんが、それでも「歌のレクリエーション」「体のレクリエーション」「体操」「作業活動」などが提供されている場合がほとんとです。
また「リハ特化型デイサービス(短時間通所)」といって、機能訓練指導員と呼ばれるスタッフが身体機能の維持・改善のために介入する通所施設も存在します。
要支援・要介護認定を受けている方が対象になりますので、能力を落とさないように・介護がより多く必要にならないようにケアプランの中に組み込まれることが多いです。
ただこのデイケアやデイサービスは、身体能力を維持するためだけに存在しているわけではありません。
外出の機会を持ち他の利用者やスタッフと触れ合うことで「社会参加する」意味合いもありますし、運動そのものも認知機能の低下を予防する効果があるのです。
2020年、海外の研究になりますが「身体活動と認知機能低下リスク」というタイトルで身体活動が認知機能にどれくらい影響を及ぼすのか、という研究が発表されました。
この研究のメタ分析結果によると、定期的に身体活動を行っている高齢者はそうでない高齢者と比較して、認知機能低下のリスクが最大38%低いことが明らかになっています。
また軽度から中度の身体活動でも効果があることが示されたため、多くの高齢者にとって実践しやすい方法であることもポイントです。
つまり激しい運動をしなくても、デイケアやデイサービスに通うことで活動の機会を持つことはいわゆる「ボケ防止」「頭の体操」になるということですね。
高齢者向けリハビリの種類と効果
高齢者向けのリハビリテーションには、主に3つの種類があります。それぞれの特徴と効果について詳しく見ていきましょう。
理学療法(PT: Physical Therapy)
理学療法は身体の動きや機能の回復を目指すリハビリテーションです。主に運動療法や物理療法を用いて、身体機能の改善を図ります。理学療法士が担当します。
とはいっても、あまりピンとはこないかもしれません。場所によっては、理学療法士が身体機能の向上だけでなく生活動作のリハビリに積極的に入ることも珍しくありません。
理学療法士が行うプログラムの一例
●筋力トレーニング
●ストレッチ
●バランス訓練
●歩行訓練
●温熱療法や電気刺激療法などの物理療法
作業療法(OT: Occupational Therapy)
作業療法は、日常生活動作の改善を目指すリハビリテーションです。「作業」とは、日常生活のあらゆる活動を指します。作業療法士が担当します。
理学療法と同様、作業療法でも可動域練習や筋力訓練、歩行練習を行うことも多くあります。
作業療法士が行うプログラムの一例
●日常生活動作(ADL)訓練
●家事動作訓練
●趣味活動の支援
●住環境の調整
●福祉用具の選定と使えるようになるための練習
言語聴覚療法(ST: Speech-Language-Hearing Therapy)
言語聴覚療法は、言葉を話したり聞き取ったりするなどの言語機能や嚥下(えんげ)機能の回復を目指すリハビリテーションです。
言語聴覚士が担当します。
言語聴覚士が行うプログラムの一例
●言語訓練
●構音訓練
●嚥下訓練(飲み込みの訓練)
●コミュニケーション能力の改善の訓練
これらの3つのリハビリテーションを適切に組み合わせることで、高齢者の方々の心身機能を総合的に改善し、より快適な日常生活を送ることができるようになります。
挙げたプログラムはほんの一部であって、その方の能力や状態・目標とする生活動作に合わせて非常に幅広いプログラムが存在します。
リハビリは具体的にどんな効果があるの?
リハビリテーションのメニューは幅広いですが、とても多くの効果をもたらします。
身体機能の改善、日常生活動作(ADL)の向上、そしてQOL(生活の質)の改善という3つの主要な側面から、リハビリの効果を詳しく見ていきましょう。
身体機能の改善
リハビリテーションによる身体機能の改善は、健康な生活の「基礎」になります。
関節可動域の改善
ストレッチや関節運動により、関節が動かしやすくなったり動かせる範囲が広くなったりします。これにより、日常生活動作がスムーズになります。
例えば、階段を安全にのぼるためには足関節で少なくとも30°の背屈(つま先を上げる動き)が必要です(足関節の背屈に関する研究:Andriacchiら, 1980)。
また、膝関節では60°〜80°の屈曲が求められます(膝関節の屈曲に関する研究:Nadeau, S., McFadyen, B. J., & Malouin, F. 2003.)。
関節の硬さがある場合などは適切なストレッチや運動により、これらの角度を維持したり改善することが必要です(ROM訓練といいます)。階段を安全に上れるようにするためには、可動性を高めてつまずきのリスクを減らすことが必要ということですね。
筋力強化
関節がいくら動いても、自分で関節を動かすには、筋肉が欠かせません。
その筋肉の力が弱いと、可動範囲いっぱいに関節を動かしたり重力に負けずに運動をすることが難しくなってしまいます。
高齢者でも筋力強化の阻害因子となる既往がない限りは、筋力と筋量を増加させることができます。高齢者の筋力トレーニングにより下肢筋力が平均29%、上肢筋力が平均24%増加したことが報告されている文献もあります(Peterson, M. D., Rhea, M. R., Sen, A., & Gordon, P. M. 2010. )。
阻害因子となる既往というと?というところですが、例えば腰部脊柱管狭窄症のように神経根などを圧迫している場合、筋力低下などの症状が持続的に続くために筋力強化がなかなか難しい場合があります。
また、変形性股関節症・膝関節症のように運動時に痛みを生じやすい場合も筋力トレーニングが困難になることが多いでしょう。
関節リウマチ(RA)の場合などだと、炎症による激痛に加え強い負荷が関節に負担をかけやすいためそもそも高度の筋力トレーニングの対象にならないケースもあります。
食事量が少なすぎる高齢者では、筋肉の合成と修復に不可欠である「タンパク質」の摂取量が十分でない場合があります。
タンパク質の摂取量が不十分な状態で長期的に筋力トレーニングを続けると、筋肉の合成と修復が適切に行われず、トレーニングの効果が十分に得られない=筋力強化がスムーズに進まない可能性があるので注意が必要ということですね。
また、極端なタンパク質不足とカロリー不足が続く場合、体は必要なエネルギーを得るために筋肉タンパク質を分解する可能性が高まり、これが筋肉量の減少(サルコペニア)のリスクを増加させる可能性があります。
適切なタンパク質とカロリーの摂取が、効果的な筋力トレーニングを生み出し安全に筋肉量の維持・増加に繋がります。
バランス能力の向上
「バランス能力」とひとことで言っても、前述した「関節の動かせる範囲」や「筋力」についてもバランス能力を構成する要素となっていて、とても複雑な機能です。
●感覚システム
→視覚:環境と身体の位置関係を把握する
→前庭系:頭部の位置と動きを感知する
→体性感覚系:筋、関節、皮膚からの感覚情報を処理する
●筋骨格系
→筋力・関節の可動域・骨格的な姿勢
●中枢神経系
→感覚統合:異なる感覚入力の処理と統合
→予測的姿勢制御:予期される動きに対する事前の姿勢調整
→適応能力:変化する環境や課題に対する適応
●認知機能
→注意力:バランス維持に必要な注意力の配分
→実行機能:複雑な環境での意思決定と行動計画
●反応性姿勢制御
→予期せぬ外乱に対する素早い姿勢反応
例えば、視力が衰えてもバランスは悪くなります。健常な状態でも「目を閉じた状態で歩いてみて」と言われてると障害物がどこにあるかの情報が分からなくなったり探り探り歩くことになるため、自ずとフラフラするでしょう。
足裏の感覚が低くなってしまうと、地面の状態や体重がどこにどれくらいかかっているかが分かりにくくなります。立っているときや座っているときの姿勢が崩れやすくなったり、砂利道や悪路などの凸凹した路面で安全に歩くことが難しくなるというわけですね。
どの構成要素がバランス機能の低下に影響を及ぼしているかによって、バランストレーニングの内容は変わってくるでしょう。
日常生活動作能力の改善
身体機能のトレーニングで基礎を整えることと同時に、実際の日常生活動作のトレーニングも重要です。
基本動作能力の改善
基本動作の構成要素は、以下の通りです。
●起き上がり
●座った姿勢を保つ
●立ち上がり
●立ち上がった姿勢を保つ
シンプルに、ベッドに寝ている状態からベッドに座って立つまでとイメージしてもらって大丈夫かと思います。
とても単純な動作に見えますが、脊椎の圧迫骨折などになると寝返りすら、背中や腰の痛みで難しくなってしまう時があります。
また、パーキンソン病でも円滑な寝返り・起き上がりが行いにくいことが多いです。
特にこれといった既往がなくても、腹筋に力が入りにくくなり起き上がる方向への重心移動が難しくなることは往々にしてあるでしょう。
これら基本動作は本来システム化されたものです。誰も起き上がるときに「お腹に力を入れて・・・」「今度はこっちの手を持ってきて・・・」などと意識的に行う人はいないでしょう。
その自然に行えていたはずの動作が、関節の可動範囲が狭くなったり筋力が落ちたり、あるいは脳などの中枢神経の障害においてシステム化が難しくなると行えなくなる可能性があるのです。
移動能力の改善
とてもざっくりした言い方になりますが、「移動能力の改善」も人によって「何を以て移動能力が改善したといえるのか」が変わってきます。
もともと車いすでの移動が主であったのであれば車いすの自走をもっと行いやすくなるよう練習が必要になるかもしれませんし、杖歩行だった人が歩行器でしか歩けない状態であれば、介助なしで杖で歩けるように歩行練習をする必要があるでしょう。ふらつきや痛みなどの状態によっては二本杖のほうが実用性があるかもしれません。
進行性の病気であれば改善よりもいかに維持するかのほうが重要になってくることもあるでしょう。
支えなし
●独歩:何も支えを持たない歩行
杖
●一本杖:一般的なT字杖での歩行
●四点杖:4点で支える杖での歩行・少し扱いが難しいことも
●ロフストランド杖(ロフストランドクラッチ):前腕を通すカフ部分とグリップの2カ所で体重を支えられるため、握力が弱かったり腕の力が弱い人でも使いやすい
●二本杖:左右の手に杖を持つため一本杖より安定
●松葉杖:脇当とグリップがあり、しっかりした作り。2本1組で使用したり片松葉といって片方で使用したりと目的によって変わる。主に足への荷重を減らすための構造
脇にがっつり当てると腋窩神経という神経を圧迫して手が痺れたりするため要注意
歩行器
サークル・オパルタイプ歩行器:一般的な歩行器。前腕を乗せて体重を任せられるため安定性がある
ピックアップウォーカー:軽いが安定性があり、持ち上げて前方に進んでいく歩行器
キャスター付き歩行器:持ち上げなくても前に進み、固定性もある歩行器
シルバーカー
シルバーカー:荷物も乗せられる手押し車
車いす
標準型車いす:一般的なタイプの車いす
電動車いす:ジョイスティックで操作でき、長距離移動が可能
リクライニング車いす:背もたれの角度を調整できる、血圧変動がある場合などに利用
日常生活動作能力の改善
食事・入浴・排泄・整容・更衣からなるのが「日常生活動作」です。
日常を送るなかで必ず必要な動作ですね。
特に「食事」と「排泄」については自分で行うことが難しいと問題として挙がりやすいです。
というのも、入浴・整容・更衣については時間の融通が利いても、日中食事をしないとか排泄を我慢するといったことは難しいからです。どちらも自分でできないと、介護サービスの利用が必須になったり、家族などが外での仕事をやめる必要が出てきます。
逆にいえば、トイレまで行けなくてもポータブルトイレに移ってトイレが出来るとか、失禁してもパッド交換は出来るとか、自己処理ができる場合には特に問題にならないこともあるでしょう。やわらかい食事を作ってもらえれば冷蔵庫から取り出してレンジにかけ自分で食べられる、という場合も同様です。
また、トイレに関しては「人に下のお世話になりたくない」といって早めに自分で出来るようになりたいと考える人がとても多いです。
日常生活動作は人の生活を構成する基本的な作業になるため、身体機能の確保をしたのち日常生活動作の練習も必要になってきます。
もし、握力や指の力が弱かったりしてなかなか改善できない場合なども、扱いやすいばね付き箸や太柄のスプーンを使ったりと便利な商品が今はとてもたくさんあります。着替えであればボタンを留め外しせずに済む服など、環境を調整して生活動作を行いやすくすることも手段として取り入れると機能の改善が難しい人でも介助なく動作を行うことができ、生活がしやすくなるでしょう。
自分のことが自分で出来なくなる、というのは人によっては大きなストレスを生むものです。
出来る限り自分のことは自分でできるように維持すると、自信の喪失も防ぐことができますし能力の維持もできます。
ただ、自分でするのがあまりにも時間がかかるとか、労力がかかりすぎるといった場合には自分で行い続けることが本当に自分にとって良いことなのか見直すタイミングでもあるでしょう。
QOL(生活の質)の改善
リハビリテーションは総合的な生活の質(QOL: Quality of Life)の改善にも大きく貢献します。リハを行ううえで最終的な目的といっても過言ではないでしょう。
社会参加の増加
活動が維持されることで、外出や社会活動への参加が行いやすくなります。
老人会やサークル活動・グランドゴルフなどの趣味の場など、「生きがい」の場への参加を維持するというのは生活の質の維持に直結するからです。
デイサービスやデイケアは、ある意味社会参加の場でもあります。
外へ出るのが億劫だ、という人でも行ってしまえば少しずつ交友関係が出来てきて、そのうち生活の中心になることも多いです。
もちろん、そもそも人が多いところが苦手だったり人付き合いがあまり好きではないといった時にはサービス導入には慎重になる必要がありますが、人とのつながりの中で自分の存在価値を見出すというのは、年齢に関わらず同じだと言えるでしょう。
生活満足度が上がる
「部分的に介助が必要でも、生活に満足している」
「自分らしく生きることが出来ることが幸せである」リハビリテーションは、最初に述べた通りまさに「自分らしさ」を再構築し、生活満足度を上げるために存在します。
ただ単に膝の関節が10°曲がりやすくなったからといって、それを生活に生かさなければ意味がありません。文字が書けないと訴えている方に、ペンを握らないと文字が書けなくなるからとひたすらに文字を書いてもらうことだけが正解ではないかもしれません。
リハビリテーションの効果は相互に関連しており、一つの改善が他の面での改善を促進する好循環を生み出します。例えば、歩行能力の向上は外出の機会を増やし、それが社会参加の増加につながり、結果として精神的健康や生活満足度の向上をもたらすという側面もあるでしょう。
リハビリテーションは、このように高齢者の方々の生活全体を包括的に改善する力を持っています。ただし、これらの効果を最大限に引き出すためには、個々の状況に合わせた適切なプログラムの選択と、継続的な取り組みが重要です。
認知機能トレーニングは効果的か?
認知機能の維持・向上は、高齢者の生活の質を保つ上で非常に重要です。以下のような活動を日常的に取り入れることで脳を活性化させることができます。
ただ、認知機能トレーニングによって認知症による周辺症状(混乱・徘徊など)や日常生活上の困難さが改善するかどうかは、明らかにされていないのが実際のところです。
あくまで認知機能の維持をするためのものと覚えておきましょう。
もちろん計算がもともと好きだとか、家計簿をつけることが生活の一部になっていたなど余暇活動の一部である場合はより脳の活性に繋がります。
パズル
ジグソーパズルや数独などのパズルは、集中力や問題解決能力の向上に効果的です。
週3回、各30分間のパズル活動を6か月間続けることで、高齢者の認知機能テストスコアが平均15%向上したことも研究で報告されています(Wangら, 2020)。
計算ドリル
簡単な計算問題を解くことは数的処理能力の維持に効果的です。
2019年のメタ分析では、定期的な計算ドリルを行う高齢者グループが、そうでないグループと比較して認知症発症リスクが28%低下したことが示されています(斎藤ら, 2019)。
まとめ
高齢者のリハビリテーションは、加齢や疾病によって低下した身体機能や認知機能の回復を主な目的としています。しかし、高齢者のリハビリテーションの最終的な目標は単なる機能回復にとどまりません。その人らしい生活を取り戻し、自分らしく生きることができるよう支援することにあります。つまり高齢者一人ひとりの個性や価値観を尊重しながら、その人らしさを最大限に引き出すことこそが、リハビリテーションの本来の目的といえるでしょう。
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